今月は、蝋型鋳造師の上坂 成次(こうさか せいじ)氏に「蝋型・ロストワックス鋳造に携り40年を迎えて」と題してお話を伺いました。
- 右にいらっしゃるのが今回の講師、上坂さん
- ロストワックス鋳造法ではこのように細かな加工ができます。
- こんな仏具や香炉などの道具も作っています。
- シリコン型と仕上がり品。 数%縮まっているのがわかる。
- シリコンゴムで型取をした例。
- 型取をした2つをくっつけるとこうなります。
- 作品ができるまで 2:ゴム型作成
- 作品ができるまで 3:中子製作
- 作品ができるまで 4:ワックスパターン作成
- 作品ができるまで 5:ツリー製作
- 作品ができるまで 6:鋳型製作
- 作品ができるまで 12:仕上げ
概略
上坂氏は1945年に富山県富岡でお生まれになり、1964年県立高岡工芸高校を卒業され、長柄製作所に入社。
1981年には高和製作所を創業され現在、社主であられます。
高岡市は銅製品のシェアーが日本一だそうですが、中でも蝋を使っての鋳造はとても繊細な仕事になります。
上坂氏が扱っているロストワックス鋳造法は、美術品として要求される品質とセンスを存分に表現できる鋳造方法ですが、多くの工程があり、完成品までには1ヶ月から2ヶ月を要し、すべての工程に経験と技能が要求されます。
古来伝承されてきた蝋型鋳造法とロストワックス法を融合させた高岡流ロストワックス法は、ミニチュアの蛙や鹿のような小物品から、部屋の装飾のような大型品、高級仏具、茶道具、国宝級の文化財等の復刻品までも製作することが可能で、高岡銅器の発展におおいに貢献しています。
講義前
この日は、京都は桜がほぼ満開で日曜日ということもあり、電車も満席、ホテルも割高という状態でした。
10時頃は雨がすごくて大変でしたが、講義が終わった13時頃には晴れ間が見えました。
蝋型鋳造て何?
蝋型鋳造には、「古式鋳造」と「精密鋳造」があります。
古式鋳造
・蜜蝋と松脂を使う
・1回1品分しか作れない
・今でも作家さんが手法として使う
精密鋳造
・ロストワックス法とも呼ばれる
・1回作ると複数品作れる、量産ができる
さらに精密鋳造には、
・セラミック シェルモールド法
・プラスターモールド法
・ショウプロセス法
・ユニキャスト法
などがあります。
今回の講師の上坂氏は、精密鋳造のセラミックシェルモールド法の高岡方式(ロスト)という方法の職人さんということになります。
高岡市で生まれた高岡方式。
高岡の人達は精密鋳造のことをロストワックスかロストというそうです。
精密鋳造製法の特徴と欠点
<特徴・長所>
・精密な鋳肌に鋳造できるので、文化財の複製品や高級品などに使える
・複雑な形状もシリコンゴムを使用することで可能
・流込金属の多様性(アルミ合金、錫合金、金、銀、銅など)
・型をつくるだけもできる
・再利用できる
<欠点>
・再利用できない部分も多い
・制作過程で2度収縮してしまう
・収縮率を考えて大きめの原版を作ったりと、手間がかかる。
この欠点ですが、詳しく書くと、ワックスを作る際と、金属が冷える際に、2%から2.5%収縮してしまうそうです。
必ず収縮するので、そこを十分考えてすすめないと、よくトラブルの原因になってしまうそうです。
ロストワックス鋳造法
以下を見ればわかりますが、1つのモノを作るのに別に作成する数がとても多くて、職人技術がたくさんです。
1.原型(マスター)製作
原型製作には粘土や木を使う方法がもっとも多いようです。
その後、石膏や樹脂に置き換えたり、金属に置き換え、仕上げ職人が丹念に模様を仕上げ、種型と呼ばれる完成度の高い原型となります。
2.ゴム型作成
原型を基に、シリコンゴムで型取をします。
ワックスパターンを作成するための型で、原型を半分に見切り片方づつが入るくぼみをつけた石膏を2個作成し、くぼみの中に特殊なシリコンゴムを流し込み1晩かけて固めます。
複雑な形状の時は複数ゴム型を作ります。
3.中子製作
香炉など中が空洞になっているものは空洞部分に金属が流れないように中子という塊を作ります。石膏を流し中子原型を作り、原型を基にゴム型を作ります。
出来上がったゴム型に耐火材を流し込み中子を作ります。
最終的には取り外さなければならないので、なるべくぎりぎりの柔らかさの耐火材にするのがコツ。
4.ワックスパターン作成
ゴム型にパラフィンや蜜蝋などで作られた約80度~100度に溶解したワックスを注入します。
複雑な形状の場合、油圧、空気圧を加えてワックスが先々まで行き届くようにします。
このとき中子はケレンと呼ばれる針金でゴム型に固定してワックスを流します。
5.ツリー製作
ワックスパターンに湯口や湯道などをワックスで作成し取り付け組み立てます。
形が木のようであることからツリーといいます。
6.鋳型製作
ツリーに耐火性の高い特殊な耐火性のジルコンサンドを何層にもわたって覆い鋳型を作ります(これをシェルといいます)。作業に4日から5日かかり、徐々に粒を大きくし、つど乾燥させるため、温度と湿度の管理が要求されます。
7.脱蝋
約800から900度の焼成炉に鋳型を入れワックスを流出させ取り出します。
ロストワックス鋳造の名前の由来はここからきています。
取り出したワックスは再生して再利用できます。
8.焼成
鋳造を行う前の大切な準備です。
焼成炉で約800度で鋳型を3時間から8時間かけて焼き、鋳型強度を高めます。
この作業は、コークス、電気炉で金属を溶解している間に行います。
9.鋳造
もっとも緊張する作業です。
焼成した鋳型を取り出し、溶解した金属をタイミングを図り一気に流し込みます。
この時の温度はおおよそ1100度ぐらいになっています。
10.型ばらし
鋳型から一晩かけて冷えて固まった鋳型をばらし金属を取り出します。
鋳型は大変硬くハンマーやたがねなどでたたいてばらします。
また切断機等を使って湯口、湯道を切り取ります。
11.ブラスト、ホーニング
型ばらしで取りきれなかったシェルは空気圧でガラスビーズや鉄粉を鋳肌に拭きつける方法で除去します。
12.仕上げ
鋳造品は金属の通り道である湯口を取り除いた後、品質のレベルを上げるため仕上げという作業をします。
円形状のものは旋盤やろくろ加工といった機械加工で仕上げることもありますが、おおかたはやすりとたがねといった古来からの道具を使って職人が1つ1つ丹念に手を加えていきます。10個のうち9個以上品物にならないと商売にならず、
13.溶接
共金(鋳造品と同じ金属)で溶接します。
14.研磨
研磨を繰り返すと、鏡面のように光らせることができます。
最近は研磨の作業をする職人が減っていて困っているそうです。
15.着色
着色でも高岡独自のものがあるそうです。
他国で安く作れるが、色が違うそうです。
根気が求められるこの仕事からは数多くの伝統工芸士の認定を受けており、熟練職人の技の見せどころです。
課題、現状
高岡式ロストワックス法は、2度品物を作らねばならない、基本全部使い捨て、なのが欠点であり、コストがどうしてもかかってしまうとのこと。
だんだん分業がすすんでいて、地場産業になっているそうです。
今、高岡には同業者が10社ちょっとあるそうですが、1社は特殊な工業製品を扱っていて、残りの社は一部だけロストで作っているという状態だそうです。
仏具とか、文化財級のもののレプリカを頼まれることが多く、本物は奥にしまっておいて、上坂氏が作ったレプリカを展示して、一般の人達は実はそのレプリカを見学している、ということもよくあるそうです。
質疑応答
・金や銀は安い時に買いだめする?
使われる金属全般にいえるそうですが、相場が毎日変わり、損得が発生してしまうため、買いだめはせずに、契約したその日に買うとのことでした。
・ガラスは可能か?
ガラスの場合は違う製法が確立しているそうです。
・なぜ高岡の地で発展したのか?
400年前くらいに前田の殿様が城を作ろうとして、城下町に職人たちを呼び寄せて住まわせたのがきっかけ。
結局城は作られなかったが、その職人たちはそのまま住みついて独自の文化が根づいたそうです。
講演後
講演後、前に並んでいた香合や鹿や蛙の置物など、こまごました品が購入できるということで、写真に撮る暇もなく、あっという間になくなってしまいました。
ちなみに金属が何かは忘れましたが、鹿2匹で3000円、蟹1匹で1000円とのことでした。
今回の食事は和食のお弁当。
息子が3ヶ月で小さかったため、茶席には行けませんでした。
息子にとっては初めての職人を囲む会。
なかなか落ち着いてくれず、結局、貸していただいた離れの部屋で旦那にあやしてもらっていました。
そのうちもっと動き回るようになったら、会にも出席しにくくなりそう…。
講演で思ったこと
ロストワックスの方法を聞き、まわってきたシリコンゴムを見て真っ先に思い出したのは、3Dプリント。
以前、東京で3Dプリントでできあがったものをみたのですが、できあがりがそっくりでした。
それはゴムではなくて、プラスティック製だったのですが、文化財を傷つけることなく正確にスキャンして数%大きめにプリントして、ワックスを入れる前の立体物を作る、というところまでは将来的にいけそうな気がしました。
もちろん、個人的には機械化はせずに職人技のみでどこまでもいってほしいところです。
そんな風に、新商品の登場は面白いものですが、それによって失われてしまう技があるかもしれないなと思いました。

