概略
今回は、あかりについて、株式会社LEM空間工房 代表取締役、照明デザイナーの長町(ながまち)志穂(しほ)さんに「あかり今昔物語」と題してお話しを伺いました。
長町さんは、松下電工株式会社・照明デザイン室課長を経て、2004年にLEM空間工房を設立。
現在、建築照明やあかりによる街作り等、各分野であかりを自由に操る職人としてご活躍中です。
照明器具「はなさび」にてグッドデザイン賞、昨年は照明普及賞・優秀施設賞等数々の賞を受賞されています。
(参考 株式会社LEM空間工房)
主な作品例
・とんぼりリバーウォーク (2004)
LEDを使い始めの作品。
今は商店が背を向いているが、そのうち川側に向いてくることを想定して、光を主にせず、商店街の光が目立つように設計されたそうです。
そんな先のことまで考えて設計するなんてすごい。
・堂島大橋 (2011)
大阪市の橋。コンペ最優秀提案者。
毎夕6時間かけてゆっくりと色がかわり、季節と歳時記のよっても色が変わるのがコンセプトだそうです。
LEDのおかげで中間色がつくれるようになり、色の微妙な移り変わりが可能になったとのこと。
・御堂筋イルミネーション (2009-)
2009年から現在まで育てているイベントだそうです。
あかりの見せ方
長町さんのデザインのモットーは”場所の声をきけ”。
その場所にしかないオリジナリティー。
それを見つけられれば、それを生かすあかりデザインをすればいいとのこと。
例えば、「御堂筋イルミネーション」。
日本の有名なイルミネーションはけやきが多いのに対し、御堂筋はイチョウだった。
けやきに施すのと同じあかりデザイン(ふわふわとした枝にあかりを這わせるやりかた)をしてしまうと、貧相になってしまう。
そこで長町さんは、イチョウにあった見せ方、景観そのものが持っている良さを生かすことを考え、そのおかげで街と樹木と光が調和した個性的なイルミネーションがつくりあげられました。
さらに、一度デザインして終わりというわけではなく、毎年、細かく進化していっているそうです。
また、「草津、街あかり、華あかり、夢あかり プロジェクト」。
こちらも2006年から関わっていて年々進化しているプロジェクトで、2009年にようやく川を使う許可がおり、5年目にして光の銀河を作ることができたそうです。
他にも影絵トンネルなど、その街ならではの「あかり」の見せ方をいつも考えているとのこと。
…と、ここまで伺って、一つのプロジェクトだけでもすごいのに、、県も超えて、さらに何年にもわたっていくつも大きなプロジェクトをかかえているということに驚愕しました。
ターニングポイント
独立する前までは、松下電工に勤めていたそうです。
1993年から、ミリエームと松下電工とのコラボレーションで「はなさび」(→ ミリエーム 事業実績ページ)という、「守」「破」「離」それぞれのあかりをコンセプトに、照明器具が作られました。
その初代~4年くらいまでかかわっていたことがきっかけで、素晴らしい先生方に出会い、そこから明かりの素晴らしさに目覚めていったそうです。
1990~2005年まで、グッドデザイン賞105点。
今は世界に一つの特注器具しか作っていないそうです。
市民とつくるあかり
デザインには、一つに「専門の職人が単独で勝手にデザインして作る」という手法があり、それも圧倒的に大事だけれども、みんなで作り出しているデザインというのも大事で、今、そうした手法が日本中にひろがっているそうです。
地域活性化の地方事例として、島根県と広島県の県境にある邑南町(おうなんちょう)とのイルミネーションのお話をしてくださいました。
最初は単にあかりのワークショップだったそうです。
1回目のワークショップに来たのは35名。全員65歳を超えた方々。
都会のイルミネーションを見て、綺麗だけどそれらと同じは違うよねと気づく。
2回目のワークショップは、見せたい場所を考える。
あまりに広いので苦戦したが、邑南町にしかない駅、宇津井駅を発見。
そして、素人さん達からものすごい楽しいアイデアが出てくる。
ワークショップが終わった後、せっかくだから実際に実行したいと住民の人が役場に直談判したそうです。
できるかぎり自分たちで作ることにより、開催することができました。
最初は2010年12月3,4,5日に開催され、第15回ふるさとイベント大賞・奨励賞を受賞。
これは島根県初。
邑南町のイルミネーションのすごさは、圧倒的な暗さの中に少ないワット数(全体で5ワット)で明かりが表現できること。
たんぼで5000球、御堂筋のイルミネーション木一本で5000球。
光の分量が同じなのに、闇の中だと感じ方が違う。
それから、大量の稲穂にあかりをつけるなど、業者に頼んだら予算や手間で不可能なことでも、市民が協力して楽しんで行うことで、できてしまうこと。
その他にも、市民とつくるあかりのいいところは、
・前からあったものを再認識できる。
・イベントは3日間明るくしたら、また元の静かな日々に戻れる。
・ある種刹那なこと。スペシャルな日ができる。
・みんなが受け入れてくれる。
・孫が光のイベント目指して帰ってくれる、成功させたい、とパワーがでてくる。
などだそうです。
機会があったらぜひ見にいきたいと思いました。
江戸のあかり
日本の昔のあかりについてのお話も伺いました。
江戸のあかりを研究しているうちに、女の人の働きっぷりがすごいことがわかったそうです。
もしかして男性天国だったのかもとのこと。
時代劇などでも、あかりに注目してを見ると面白いそうです。
時代考証する人、きちんとしていてえらい。
– 枕行燈 ← トラベルセット。my照明持ち歩けた。それだけ暗闇が多かったということ。
– 利休行燈
– 有明行燈、遠州行燈。
あかりに使われていたのは何の油か。初期はイワシ油、後期はなたね油と言われている。
世界一清潔な街だったが、おそらく魚くさかっただろうとのこと。
もどりつつある江戸のあかり
川床は2011年から明らかに照明が統一されたそうです。
明らかに照明が作り直されている。
観光客が想定されている所は、どんどん改善されているとのこと。
あかりがきちんとしていると、情緒的にもなる。
日本の美は、一つとして同じものをおかない。
見たての美。
見たてられる美意識が必要!
食器は全部違うなど。こういう文化を大事にしていく。
日本人がもっている、上質なあかりの記憶
日本人は非常にスペシャルなあかり体験のDNAを持っているそうです。
和紙のおかげで光かべで過ごしていた。
現在は、人工的に光かべを作っている。
日本のデザインは、圧倒的に上等なんだそうです。
茶室も、余白で光のバランスを楽しめるようになっています。
配置も左右対称ではなくて、ずれているのですが、どうやってずれているか、どうずらせば美しいのか、見て覚えるしかない。
他にもあかりに関して参考になるポイントをたくさん教えていただきました。
・日本人は壁の装飾が下手(DNAにない)。
日本は光のかべなので、絵をかけることをしなかった。
壁の家には壁の家のやり方がある。
・バウンドしてきた光、もっと暗くてOK。
・あかりに関して、西洋は様式を変えていったのだけれども、江戸は深堀りする。
・寝る前は、電球色。できるだけ黄色い明かり。
調光が望ましい。
・本当は全体照明はいらない。
本当は壁に光をあてるのがいい。
ライフワーク
世界の街あかりを訪ねて撮影すること、だそうです。
数点見せていただきました。
・ホイアン
京都みたいな街。
・中国の鳥鎮(ウーチン)
とっても綺麗。いつか行ってみたい。
・メキシコ
・ドイツのMarburg
ここは19世紀に汚くなっていたところを、古い街並にもどした場所。
・上海の老街(ローガイ)
素敵です!いってみたい!
世界は街のあかりの使い方が上手です!
でも、いろいろ見てきた中でも、日本の京都が一番!というお話にはうれしくなりました。
せっかく身近にいいお手本があるのだから、もっと参考にしないと。
質問1:寺(講義の場所)の明かりをいくら明るくしても暗いと言われてしまう。どうしたらいいか?
住職さんからの質問でした。
すべての電気を消して、これが日本の光の壁というものです、と言われて、障子越しの優しい光を見た時、あらためて、日本の住文化って素晴らしいなとちょっと感動してしまいました。
でも、手元は確かに暗い。
そこで明かりをつけなおしても、まだ暗く感じました。
地球の上からあたっている自然光は10万ルクス。人工光は700ルクス。
なので、自然光の横に置くとどうしても暗く感じてしまうのだそうです。
そういう時は、手元だけをピンポイントで照らす明かりが効果的なのだそうです。
質問2:自宅(普通のマンション)をどうやったら光の壁にできるのでしょうか?
こちら、どうしてもお伺いしたくて、私が質問しました。
ここでは、ポイントを書いておきます。
・置き行燈を置くといい。実はイケアがいいとのこと。
・照明は1つじゃダメ。3つくらい必要。
・植物の後ろ、壁にあたる位置に。
・壁にあてる
・天井照明を消す(和紙でとめる。半分に分量を減らす)
・照明を裏に隠す。
など。
あかりに関する、おすすめの本
「照明ガイド―光で劇的に空間を変える
」
長町志穂さんも掲載されているそうです。
日経BP社から出ています。
「Delicious Lighting」
長町さんに初心者向けの自宅照明のおススメを伺ったところ、東海林弘靖さんの「あかりのレシピ」がいいと言われたのですが、同名の著作がなかったのでこちらを載せます。
あかりに関する、おすすめの場所
◎ 神戸ランプミュージアム → 公式サイト
今回の講義で話のあった日本のあかりの現物がすべてそろっているそうです。
是非一度行ってみたいと思います!
◎ 三浦照明 → 公式サイト
江戸のあかりが買える店。
ちなみにgoogleのお店フォト、お店の商品が丸見えで面白かったです。
◎ 倉敷
石井幹子(もとこ)さんが手掛けた倉敷の建築の二階部分の照明の使い方が素晴らしいそうです。
◎ 雪あかり in にしわが → 公式サイト
雪の中にあるあかりはとても幻想的できれいだそうです。
以前同じように土の中にあかりを入れようとしたら失敗したそうです。
ゆきの中にあかりをいれるのは真似できそう。今度やってみます!
会の感想
私の友人夫妻と旧知の仲でカヌー仲間だそうで、前日その友人夫妻と食事会をした際に、長町さんはとっても気さくな方よと言われていたのですが、あまりの凄い方っぷりに圧倒され緊張してしまい、せっかく紹介していただいたのに、まともにお話できなかったのが残念でした。
いつもよりも長時間の講義にも関わらず、まったく気にならないくらい中身の濃い内容でした。
質問もみなさん熱心で、他にもいくつか質問がありましたが、聞くのに集中してしまい、書ききれませんでした。
どの質問への答えにも凄く的確で、感じ入りました。
お話の際に様々なパワポ資料が出てきましたが、どれもじっくり見てみたい内容でした。というか欲しい!
光が見える原因は、影があるから。
暗いから見える。
暗いところができればできるほど、明るさが目立つ、
という言葉がとても印象に残りました。
とにかく、我が家をもっと和の、光と影がある部屋、光の壁の部屋に近づけるべく、別コーナーを設けて、奮闘してみたいと思います。

