9396竹紙専門店[テラ]代表小林亜里(あり)先生に「竹から紙を作る」と題したお話しを伺いました。
実際に竹紙を持参頂き、プロジェクターを使って歴史、作り方、魅力などご紹介して頂きました。
プロフィール:大学をご卒業、新聞社、出版社で記者をなされ、1990年にご主人の実家京都の西陣に居を移し、その後人と自然を考える中で、1997年頃作家の故水上勉氏との出会いによって竹紙の道に進まれました。現在は西陣のご自宅と奥嵯峨に古民家を得て、ワークショップ等でご活躍中です。
会に到着
多賀SAの宿から京都に向けて出発。
お盆休みの真っ最中の日曜日のため、京都市内の車が非常に混んでいて、10分ほど講演会場に遅れて到着しました。
娘も慣れたKさんがいらしていて、1階で遊んでくださっていたおかげで、久しぶりに夫婦二人でゆっくりお話を伺うことができました。
個人的に、竹には非常に興味があったものの、竹紙というのは初めて知りました。
先生と竹紙との出会い
小林先生は、もともと出版社の編集の方で、縁あって作家の水上勉氏に出会い、竹紙の魅力を知ったそうです。
まずは1998年頃の写真とともに、お話を伺いました。
その頃、信州にお住いの水上先生のもとで、何度か泊まり込みで竹紙の作り方を教えていただいたそうです。
半年以上つけこんだ竹を取り出し、熱湯であくをとり、水で洗い、杵つきばったんというもので竹をついて、細かくし、漉くことで、竹紙ができあがります。
そうやって、2年ほど学んだのち、1999年に寺町二条に「Terra」という竹紙専門店を作ったそうです。
その行動力と実行力は凄いなぁと思ってしまいました。
竹紙を作ろうと思い立って先生のもとに通うことや、竹紙の専門店を立ち上げようと思うことはできるとしても、本当に実際に立ち上げて形にしてしまうというのは、誰でもできることではないです。
さらに、小林先生は、ただ店を立ち上げて存続させるだけではなく、「買うのはいいけれど、どう生活に使ったらいいかわからない」というお客様の声をひろいあげて、10年後に一度店を閉め、より生活に密着した形で竹紙を提案できるようにと、自宅開放型の店舗にしました。
そして以前から行っているワークショップと合わせて、竹紙の魅力をきちんと理解することができるような仕組みを作ったのです。
竹紙の歴史
竹紙の歴史は、中国からはじまり、日本でも存在しましたが、それほど発展してこなかったようです。
その理由は、楮、三椏、雁皮などによる和紙職人文化がより発展していたということもありますが、大変手間がかかるということも大きな原因だったようです。
竹紙には、滲みにくく、虫に対して丈夫という利点もありますが、脆弱性と耐久性の無さという欠点もあり、ゆえに作り手と使い手が減っていってしまいました。
さらに戦後、機械化にあたって、大量生産をするというラインにものらなかったため、気づけば日本では数えるほどしか竹紙が作れる人がいなくなってしまったようです。
竹紙の作り方
中国の「天工開物」という本に、竹紙の作り方が図解されています。
竹紙に適しているのは5月6月頃の若竹ですが、他の月にとった古竹でも、作れないというわけではなく、色が濃くなるとか、違った風合いが出るなどの味になるそうです。
竹の種類も同じ感じで、基本的にどんな時期のどんな竹でも紙にすることは可能だそうです。
切った竹を節をとって樽につけこみます。
竹は節があるせいで、繊維の長さは最大でも節と節の長さと決まってしまう。
節があってもできなくはないけれども、作りにくいそうです。
樽には竹と水のみ。それを数年放置します。
途中、竹の水かえはしません。
水替えをしてしまうと、発酵が止まってしまうそうです。
発酵というだけあって、1年目の夏は相当臭くなるそうです。
でも、発酵時期がすぎると匂いも落ち着いてくるみたいです。
10年目の樽でも竹の繊維自体は腐らないので、そういう意味では竹の繊維は強いといえます。
ある程度たったら、それを竹の繊維玉に加工するために取り出すのですが、それは最低1年は待ったほうがいいです。
あまり早くに取り出して竹紙にしても、紙が縮んでしまうのだそうです。
取り出した竹を、三日間煮て、五日間臼でつきます。
煮る方法としては、ストーブの灰や苛性ソーダなどのアルカリ成分のものを入れて炊きます。
出てくるアクを丁寧に取り除いてよく煮ます。
そうしてできた竹紙の玉を、今度はよく叩きます。
繊維はよく煮てよく叩くことで、繊維が見えないくらいになります。
5月の竹は柔らかいのでその加工に向いています。
それゆえ、竹紙に適しているのが5月の竹だというわけです。
竹紙を作る際に、藍染めや草木染をすることもできます。
実際に講義中に、藍染めがほどこされた竹紙をみることができましたが、とてもきれいな色合いでした。
普通、和紙を作る際には糊が必要ですが、スゲタを使わなければ、竹紙の場合は100%竹だけで作れるそうです。
糊が必要な場合は最終工程は冬に行うのが望ましいのですが、その必要がない竹紙は、どの季節でもつくれるというメリットがあります。
竹そのものに、糊のような吸着成分があるのだそうです。
竹って奥深い。
ただし、スゲタを使わない方法だと、紙を重ねることができないため、木枠で1枚1枚漉いて、その木枠分の干す場所が必要になります。
竹紙に使えそうなもの
ランプ、ついたて、障子、扇子、ハガキなど、竹紙が実際に何に使えるかの例を教えていただきました。
ランプは自分でも作れそうだし、障子やハガキなどは、小さい竹紙を作ればいいので、重宝しそうだと思いました。
香川の実家にはすでにやぶれた障子があるので、それの張り替えにこの竹紙を使えたら素晴らしいです。
できあがるまでに1年以上かかるので気の長い話ですが(笑
今は制作をストップしている版画も、竹紙ハガキで作ってみたいです。
小林先生のお話の巧みさのせいか、竹紙の持っている魅力のせいかわかりませんが、話を伺っているうちに、すぐにでもやってみたい!という気分になるのでした。
海外での竹紙
小林先生は、国内の竹紙職人さんとの交流だけではなく、海外での竹紙事情にも興味をもっておられ、何度か視察に出かけておられます。
スライドでは中国とラオスの様子を見せていただいたのですが、それぞれに違いがあって面白かったです。
両国ともすべて手作業という点は同じなのですが、中国では販売用に大量につくられている一方、ラオスでは祭礼用に個人で少量作ることが多いという違いがありました。
ラオスでは、普段の書き物で竹紙を使うことはなく、成人儀礼用に使うそうです。
質疑応答
会の最後に、質疑応答のコーナーがありました。
私も珍しく質問してしまいました。
私は実際に作ってみたくなったので、個人でも作れるものなのかという質問をしました。
「さっそく弟子が誕生しています」と会の司会の方に笑われました(笑
竹と、臭いので人里から隔離された場所があればとのお話だったので、その点はクリア(香川の実家はまさに適所)。
あとは、漉くためのメッシュの木枠が必要とのことだったので、実際に必要になった頃に手作りするか、購入するかを考えてみることにしました。
ラオスでは布で漉いていたので、布を使うこともできますが、相当な技術が必要とのことでした。
他にも数人新弟子が生まれていて、質問にも熱が入っていました。
「竹紙にそれほど惹かれた理由は?」との質問には、小林先生は
「ものの一番最初から全部見渡して作れるというのがすごく贅沢なことで、現代においてそれができるということに惹かれた」とおっしゃっていました。
確かにその通りで、自分で使うものを自分で1から作れるなんて、昔の人にとっては何でもないことかもしれませんが、今の世の中ではむしろ貴重なことだと思います。
私が竹細工を素晴らしいと思ったきっかけも、普段使う籠や笊を自分の手でつくれるということに感動したからです。
まあ、実際作り上げるまでには相当な手間暇がかかるし、そういうのを含めて自分でできるというのが「贅沢」ということなのですが。
だから、他の方の「竹の繊維玉を売っていただくことはできませんか?」との質問で、それはあえてしないとのお答えをしていらっしゃいました。
「うすい竹紙も作れるのか?」や「糸も作れるのか?」との質問には、いづれも、繊維をたたいて細かく加工すれば可能ですとのお答えでした。
食事会、お茶会
今回の食事会のお弁当は、普段の和食とは違い、珍しく洋食でした。
私が香川に古民家を所有しているという話を質問でしたおかげで、数名の方にお声をかけていただきました。
毎回黙ってお話を伺っているだけだったので、思いがけない縁ができました。思い切って質問してみるものですね。
お茶会の方も、珍しく、小間ではなくて広間でいただきました。
空いた席に座る形で少し戸惑いましたが、娘も一緒に3人でいただくことができました。
ちょうどお隣に小林先生が来てくださり、さらに京都の竹専門の方も同席されていて、竹の話でさらに盛り上がることができてうれしかったです。
(思い返すと、茶席としてはすこし騒がしくなっていたかもしれません。)
竹は、本来自分で箸や小物などの普段使いのものを作れるというのが良いのだという話で意見が一致していて、私も本当にそうだと思いました。
茶道でも、防腐処理された市販の竹の箸や蓋置ではなく、切り立ての青竹を亭主が削ってあおあおとした状態でお出しするのが本来のありかたなのです。
昔の茶人は、自分で茶に使う竹製品を作ることができたのです。
繊細な竹細工は確かに素晴らしいものではありますが、今はすこし高級感がありすぎると思います。
特別なものではなく、自分で作れるものなんだというような意識に皆がなっていってくれたら、物を大事にする意識も高まるし、放置竹林の環境問題ももっと良い方向になると思いました。

